大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和56年(特わ)2922号 判決

本店所在地

東京都港区西麻布三丁目八番一号

株式会社三松

右代表者代表取締役

三輪一

本籍

東京都中央区日本橋室町四丁目三番地

住居

神奈川県鎌倉市雪ノ下四丁目一〇番二二号

会社役員

三輪一

大正一一年九月一九日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官久保裕出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社三松を罰金一、八〇〇万円に、被告人三輪一を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人三輪一に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社三松(以下「被告会社」という。)は、東京都港区西麻布三丁目八番一号に本店を置き、呉服の販売等を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人三輪一は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人三輪は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五二年九月一日から昭和五三年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八、〇二六万四、六九七円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五三年一〇月三一日、東京都港区西麻布三丁目三番五号所在の所轄麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四〇二万三、九四一円でこれに対する法人税額が一〇九万二、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五六年押第一五九二号の一)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三、一二二万〇、五〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額三、〇一二万八、二〇〇円を免れ、

第二  昭和五三年九月一日から昭和五四年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七、四七八万五、九八一円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五四年一〇月三一日、前記麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四四七万七、九四四円でこれに対する法人税額が一二三万九、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の二)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二、九〇五万九、七〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告書税額との差額二、七八二万〇、四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人三輪の当公判廷における供述

一  被告人三輪の検察官に対する供述書二通

一  三輪扶美子及び鈴木美紀夫の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の簿外売上、売上除外額(吾妻流揃い分)、売上除外額(坂東揃い分)、売上除外額(揃いのゆかた分)、売上(Ⅰ)、売上(Ⅱ)、簿外たな卸(Ⅲ)、たな卸、簿外仕入、仕入、簿外外注費、外注費、簿外給料、簿外歩合給、簿外通信費、簿外交通費、簿外出張旅費、簿外包装費、包装費、簿外接待交際費、寄付金の損金算入限度額計算、簿外運送費、簿外賃借料、受取利息、簿外図案費、簿外戻し金、交際費の損金不算入額及び事業税に関する各調査書各一通

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  東京法務局港出張所登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書二袋(昭和五六年押第一五九二号の一、二)

(法令の適用)

被告人三輪の判示各所為は、いずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人三輪の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるよら、被告会社については右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示各罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一、八〇〇万円に処することとする。(量刑の事情)

本件は、銀座などに店舗を持つほか、日舞の吾妻徳穂、歌舞伎の坂東三津五郎、箏曲の宮城流家元などに出入して手広く呉服商を営む被告会社において、その代表取締役である被告人三輪が二年度にわたり合計五、七〇〇万円余りの法人税を免れたという事案であって、ほ脱額は少なくなく、ほ脱の態様も売上等を表裏の二重にして行うという芳しくないものである。同被告人は犯行の動機として絹織物販売の先行不振を強調するが、昭和五三年には吾妻流襲名披露に関し一億円を超す売上をあげているなど脱税をしなければならないほど差し迫った状況にあったとは思われない。加えて、被告会社は、これまで二回税務署の調査などを受けており、うち一回は昭和五〇年にあったにもかかわらず相当額の脱税を続けてきたもので、納税意識の希薄さは顕著といわなければならない。

こうした事情にかんがみると、被告人らの刑責は軽視できないのであるが、その非を認めて反省し、ほ脱額等もほぼ完納しているほか、これまでに前科もないことなど有利な事情を勘案して主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 小瀬保郎)

別紙(一)

修正損益計算書

株式会社 三松

自 昭和52年9月1日

至 昭和53年8月31日

〈省略〉

別紙(二)

修正損益計算書

株式会社 三松

自 昭和53年9月1日

至 昭和54年8月31日

〈省略〉

別紙(三)

ほ脱税額計算書 株式会社 三松

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例